こんな夢を見た
つい先日のこと。約3年半前に退職した元部下が夢に出てきた。そしてこう言った。
『ねえ聞いてよ。私一人になっちゃった。あーあ、転職しなければ良かったなあ』
夢だけど、やたらと現実味があった。辞めた当初の見た目ではなく、もうちょっと老けていた。退職以降一度も会っておらず今の姿なんて知るはずもないのに何故か鮮明だった。
彼女が辞めた理由は評価制度と昇給制度の不透明さ。『ここにいても先の見通しが立たないんで〜』と言って辞めていった。当時大した権力も持っていない私には止めることができなかった。
彼女が辞めて約1年後だっただろうか。同僚が一緒に食事に行ったとのことで近況を聞かせてもらった。そこで漏らした一言は『辞めなきゃ良かった、今すぐにでも戻りたい。』だそう。弊社で育てられていた環境から一変、転職先では全く面倒を見てもらえず、相手にしてもらえずの状況になっているそうだ。弊社は原則として中途採用は行なっておらず、私や彼女がいくら願おうと叶うことはない。
彼女はとにかくやんちゃで元気いっぱい、自由奔放なお嬢さんだった。だからこそ彼女を上手く扱える管理職はおらず、私が初めて会った時、『手に追えない』と言われ誰にも面倒を見てもらえず放置されていた。きっと転職先でも同じだったのだろう。
彼女が2年目に上がろうという日のこと、「誰も面倒を見ないなら私が面倒みましょうか?」私のこの一言から、彼女は私の部下となった。
私が面倒を見始めてから彼女はどんどん才能を開花させていった。彼女の同期を部内で7名採用したが一番の落ちこぼれという評価から一転、一番できる子と評されるまでに成長してくれた。特に「やる気ない」と言われがちだったがチーム内で仕事を分担するときには「私まだこれやったことないからやってみたい!」などと積極性を見せてくれた。この時の私は間違いなく彼女の成長が一番の楽しみだった。最初に昇進させるのはこの子だ、って強く思っていた。
私の父が競馬関係の仕事をしていたからか、「調教師」と呼ばれることもあった。上長からは『こいつを扱えるなんてすごいわ。どうやって飼い慣らしたの?』なんてよく聞かれた。理由は簡単だった、私が10年以上共にしているパートナーそっくりな性格をしていたから。考えていることが手に取るように分かり、『なんで考えてることバレてるの?怖い!』と笑いながら言われていたものだ。
『転職しなければ良かった』って今も思い続けてくれていたら嬉しいな。彼女の面倒を見ることはもうできないので、これからも遠いところから彼女の幸せを願い続けようと思う。本音は『今すぐ中途募集して彼女に門戸を開いて欲しい』だけどね、応募してくれるとは限らないが…。
そんなこんなで過去のことを思い出してタイトルの内容に続いていく。
部下を昇進させるには・・・
弊社は俗にいう”大手SIer”、数千名規模で業界では名の知れた大手企業だ。待遇も人間関係も非常に良く、正直辞める理由は見つからないと思っている。それでも若手の離職が絶えないのは、現代っ子に寄り添った評価基準がないからと考える。
弊社では部下を昇進させたいと思ったら、上長に掛け合うことで判定会議に名を連ねることができる。そしてその会議の場で承認が得られたら晴れて昇進となる。
ただしこの推薦には明確な基準がなく、それぞれの上長判断となっている。この曖昧さが若手の行動を戸惑わせているのだと思う。現代っ子はほぼ全員がゲームを遊びながら成長してきた。ゲームはどれもクリアの基準が明確に定まっている。もしゲームのように明確な基準があれば、そこを目標に頑張れるだろう。
私の昇進話。
私が初めて判定会議に挙がったのは5年目のこと。結果からすると「まだ若い」という理由で却下されたのだが。
私の本業はインフラエンジニアだがそれだけに留まらずアプリケーションやデータベースの設計/開発、それから元々Web広告企業でエンジニアをやっていた経験からWebデザインもSEOも行ける。正直かなり自信があったので不服でしかなかった。しかし申し立てたところで何も変わらず、1年先に持ち越されることが確定した。
そして1年が経過、この1年で上長が変わっていた。なんと新しい上長は誰のことも推薦せず、例に漏れず私も判定会議に名前が挙がらなかった。
これを聞いたとき、本気で辞めてやろうかと思った。ここだけの話、昇進者リストに名前が載らなかった日の夜に転職サイトに登録、そして翌日は仮病で休んで転職エージェントとの面談をしていた。一分一秒でも早く逃げ出してやろうと思っていたんだろう。
しかし仮病休暇を経て出社すると以前まで面倒を見てくれていた上司に呼び出され、事の顛末を説明してくれた。誰も推薦を出さなかったのは事実だが、「出させてもらえなかった」が正しかったそう。上層部が若年層の昇進を渋っていたからだ。それから冒頭に挙げた彼女は朝一番にこう言った。『昨日一日大変だったんですよぉ、早く助けてください!』と。本当に容赦のない子だ。
しっかりとお詫びがあったこと、それから面倒を見ている子達に負担を背負わせるわけにはいかないなともう一年頑張る決心をした。そしてその翌年、7年目にして晴れて昇進を果たした。長く感じたが、これでも前例のないスピード昇進だったそうだ。
そして権力を得る。
そして時は経ち、今では私が推薦を出せる立場となった。「自分が7年掛かったから、自分よりスキルの低い奴を7年未満で推薦するわけにはいかねぇな」なとどいった考えを持って渋っている人も多いが、私は決してそのようなことはしない。
自分が嫌な思いをしたからこそ、可愛い部下に同じ思いはさせたくない。その一心で積極的に推薦を出すようにしている。そしてここでは語らないが、私の中では「ここを超えたら」という絶対的な基準を定めて部下と共有している。
正直、部下をどんどん押し上げていくことは簡単だ。ただ気軽に昇進させることが必ず幸せに繋がるのか、答えは『No』だと思っている。
理由は以下の通り。
給料がバレる
お金があって困ることはない。だから昇給は嬉しいだろう。私のようにストレートで昇進を決めていけば大体5年で100万上がるくらいのペースで昇給し続ける。このまま止まらずに行けば40で800万、50で1000万の大台に乗れる。かなりいい環境だと思う。
昇給は昇進に伴ってくるものだ。昇進すれば給料も上がる、言い方を変えれば自分より上の役職にいる者は自分より給料が高いということは誰もが知る事実だ。つまり昇進すればそれを知った周囲の人にも給料が上がったことが必然的に伝わる。
「こいつ昇進したのか」「こいつ俺より給料高いんだよな」という目で見られることもあるだろう。その目はポジティブなこともあればネガティブなこともある。仕事が出来て誰もが認める存在ならポジティブだが、そうでなければネガティブな視線を浴びてしまう。
ネガティブな視線なら仕事や人間関係に悪影響を及ぼすかもしれない。「俺より給料もらってるんだからもっと働けよ」などといったところ。だからこそ、不相応な昇進は本人を苦しめる可能性もあるのだ。
業務のレベルが上がる、責任が重くなる
偉くなっていけば業務のレイヤーが変わっていく。基本的に上に行けば行くほど難易度が高く責任が重く、スキルが伴わない状態で昇進してしまうと身分不相応な業務を遂行しなければならなくなる。これも給与同様、昇進した本人を苦しめる要素となり得るだろう。
周囲の目が変わる
昇進したら大多数が羨望の目で見られる。そこで浮かれてしまって調子に乗るとあっという間に慕ってくれる人はいなくなるだろう。特に若いと顕著で、ろくな苦労もしないまま早期に上がってしまうとより相手を見下す傾向が強くなる。俗に言う「天狗」という奴だ。
総括
上げる側も慎重になるべきだと考えている。しっかりとステップを踏ませて一歩ずつ成長させて、立派になったときにはそれに見合った対価が得られていれば良いと考える。
評価する上で絶対にしないと誓っていること
絶対にしないと誓っていることがある。それは”評価基準に私自身のスキルを取り入れないこと”
「私が○年目の時はもっとスキルあったよな、だからこいつはまだまだだ。」こういった考え方だ。
まずはっきり言おう。今の6〜7年目、つまり30前後の若手社員のスキルレベル、1年目時点の私でも勝てる自信がある。
私が初めて配属されたチームは20年以上勤続のベテラン2名と30前後で若手から中堅になろうとしている有望株3名の体制だった。このチームは社長直々に構成されたチームで決してレベルの低いものではなかった。しかし私はものの2カ月で先輩3名を凌駕してしまい、チーム縮小と同時に先輩は退場、私はそのまま残ってリーダーを務めることとなった。
どうして最後の一人まで残ることが出来たのか、それは先述の通り別分野の経験があったからだと思う。アプリケーションやデータベースの知識を有していたので他部門の方々が何を言っているのか、何を求めているのか簡単に理解でき、いわば”通訳”のような立場になっていた。
業務上で触れる知識に関してメキメキと実力をつけていくものは数多くいるが、私のように専門内外分野問わずに広く深く知識を有している部下を一人たりとも見たことがない。
去って行った者は口を揃えてこう言う。「自分の技術が正しく評価してもらえない」と。果たして彼らの発言が正当なのかと考えることがよくある。未だ結論は出ないが、1つ言えることは”双方納得のいく明確な評価基準がない”ということだ。
多くの管理監督者は相対的に評価するだろう。その比較対象の中には過去の自分自身も含まれているのではないだろうか。部下たちにとっては過去の上長がどれだけの実力を有していたかなど知る由もなく、フェアな評価基準ではないと考える。
だからこそ、私は自分のスキルを評価基準に取り入れないことを誓っている。部下が私を超えられないということは、教える側の私にも責任があるからだ。
さいごに
不満を持っての退職は、”会社に対して不満がある”ということを身を挺して訴えかける行為だ。そんな心の叫びは決して無視してはならない。だから私は彼女をはじめとした退職者達の全身全霊の叫びを会社の制度に反映させていきたいと強く思う。
評価制度を変えるためには私自身が権力を手にしていく必要がある。より大きな権力を手にして、会社の制度を変えていくくらいの気持ちで挑まなければならない。最短最速で昇進を決めている私、役員まで上り詰めることも決して夢じゃないと思う。そうなったら私の勝ちだ。
まだまだ長い私の物語、辞めていった子達の思いも背負って組織を良くしていくことに注力していきたい。幸せな社員を一人でも多く増やすために。
おわり